ここは南アノマラドはナルビク。多くの人が賑わう交通の要所だ。夜中、小生がいつものように日記のネタを文章にしたためていると、窓の外から何やら声が聞こえた。
「○○〜、○○〜、どこにいるの〜?」
 声から察するに女性である。人の名前を呼んでおり、友人でも探しているのであろうか。
 しかし今は夜中。いくら治安が良い方とはいえ、夜中の路地裏などは真っ当な人間がうろついて良い場所ではない。いっそ、小生が彼女の探し人を探すのを手伝ってやろうかとも考えたが、声をかけるのは躊躇われた。何故なら、女性の声がとても真剣だったからである。小生がいい加減な気持ちで手を出すことは、とても失礼なことのような気がしたのだった。
「○○〜、ねえどこ〜?」
 女性の声は、小一時間程も辺りを彷徨っていた。
 不意に、小生の胸に黒い想像がよぎった。あるいは、彼女の友人は既に夜盗の類に襲われてしまって――。
 おりしも、現在はナントカという海賊船が港で足止めを喰らってぴりぴりしているという。何だか落ち着かなくなり、文章を書く手も一向に進まなかった。と、その時。
「○○、こんなところにいたのね!」
 無事に見つかったのだと小生は胸を撫で下ろした。別に声をかけるつもりも無かったが、一目くらい見ておきたいと思い、窓からその様子を窺った。
 そこには、ペットを探していた飼い主の姿があった。ペットらしき小さなトゥートゥーが娘さん…ベレー帽を被っているために分からないが、声から察するに恐らく娘さん…の足元におり、娘さんは今にもトゥートゥーを抱き上げようとしているところだった。
 しかし、良く見るとそのトゥートゥーのシルエットはやけに小さく、まるで頭に載せる人形ヘアピンのようにも見えた。いや、見れば見るほど人形ヘアピンにしか見えず、おかしいなと思っていると、娘さんはおもむろにそのトゥートゥーを被っているベレー帽の上に載せた。やはりアクセサリの類だったようだ。
 不可解だったが、もしかすると娘さんはそのヘアピンが名前をつける程にお気に入りで、どこかで無くしたためにずっと探し回っていたのかも知れないな、と小生が思っていた時。
「心配したのよ、○○。」
 トゥートゥーヘアピンの口が開き、娘さんに向かってそう言った。


 あ、そういえばペットがジェスターになりました。「オルゴール」って名前です。よろしく。